唯一無二の作風で世界に飛躍する。パリ在住の日本人アーティスト澄毅/ Takeshi SUMI
スタヂオ・ユニがジェイアール京都伊勢丹の「リニューアルオープン」プロジェクトを担当した際にビジュアル表現に起用させていただいたのが澄毅さん。パリで活動されている澄さんが一時帰国した10月にその時の印象やこれまでの経歴について話を伺いました。(取材:加藤)
加藤:澄さんの作風は独特です。写真にスリットを入れる作品をはじめられたきっかけは?
澄:2013年にフランスに移住してから始めました。パリに住んでいろいろなギャラリーの展覧会を観て回っていましたが、結局「オリジナリティ」をいかに持てるかが一番大切だということを痛感しました。「一目で澄毅の作品とわかるもの」を考えていく中で、写真にスリットを入れることを始めました。
加藤:思いつくに至った背景はあるのですか?
澄:小さい時から手が器用で、人と遊ぶより竹をもらってきて彫刻とかをするのが好きな子でした。そういうことが記憶の片隅にあったのかもしれません。もともと、繊細なものが集まって塊になる感覚が好きで、そういった自分の嗜好もこの作風に合っているように感じます。
加藤:はじめて発表した時、フランスの方の反応はどうでしたか?
澄:個展で発表した際に、沢山の作品を見ているフランスの方から「これまで観たことがない作品だ」と言う感想が多かったのは嬉しかったです。
加藤:それ以前も含めてですが、澄さんの作品は共通して光が印象的です。
澄:光は作品づくりのテーマです。光は何か力を与えてくれる存在でもあり、空白を生み出して、そこに新しい思考や発見を提示してくれる存在だと感じています。
異色な経歴。一般企業を退職し多摩美術大学へ
加藤:澄さんとは昨年、ユニが町家に移転した際のオープニングパーティにお越しいただいたのがはじめての出会いでした。その時に写真集を持ってきていただいて作品の話をしたのを覚えています。でもその日はじっくり話はしていなかったですよね。だから実は澄さんのことをよく知らない(笑)。改めて経歴を教えてください。
澄:実は明治大学に進学、卒業して一般企業に就職していました。親が公務員ということもあり、自分の中で芸術で食べていくなんてダメだという思考があって(笑)。でも小さい頃から持っていた何か作りたいという気持ちは抑え難くて25歳で多摩美術大学に再入学しました。卒業後はある現代美術の作家の工房で1年アルバイトをして、それから一人で作品をつくることを続けています。
加藤:一般企業に就職してからアーティストを志されたのですね。しかし思い切った決断です。フランス・パリで活動されはじめたのはいつからですか?
澄:2012年に初めての写真集「空に泳ぐ」を出版させていただいたのですが、出版社さんのご厚意でその年のパリのアートフェアで作品を発表する機会をいただきました。その際にふらっといらっしゃった初老の女性が作品を買ってくれたのですが、その女性がアニエス・ベーでした。
作品を買っていった初老の女性がアニエス・ベーだった
加藤:えっ!アニエス・ベーに作品が見初められるなんて凄いですね。
澄:日本では30歳くらいのまだまだ駆け出しの写真家の作品をそれなりの値段で購入していただけるなんて考えられなかったので、とても大きな衝撃を受けました。そいう美意識の強く、またパトロン文化のあるフランスという場所に憧れを持ってアーティストビザを申告したら受かってしまいまして。当時フランス語も数字の1,2,3ぐらいしか言えないレベルでしたが、思い切って飛び込んだ感じです。
スタヂオ・ユニとの偶然的な出会いから数ヶ月後にプロジェクトの依頼
加藤:澄さんとはじめてお会いしてから数ヶ月後の昨年の12月の終わり、ジェイアール京都伊勢丹リニューアルオープンのビジュアル制作依頼の連絡しましたが、その時はどんな思いを?
澄:正直びっくりしました!ユニさんのオープニングパーティにお邪魔したのも本当にたまたまでしたから。日本に帰国している時に、その日一緒にいた知人の画家が招待されているということでついて行った感じでした。
加藤:当時プロジェクトのコンセプトを表現するアーティストを考えているなかで澄さんが思い浮かび、最適だと思ってクライアントに提案をして採用になりました。あの時出会っていなかったら存在を知らなかったので、選択肢にはないことを考えると本当にご縁です。ただパリとのやり取り、作品制作のスケジュール感などわからなかったので、断わられたらどうしようと不安な気持ちで連絡したんですよ。
澄:これまで本の表紙のような案件はありましたが、それは既存の作品を使用したいという依頼だったのに対して今回は新作の依頼だったので自分の中でハードルの高さを感じていました。
加藤:今では当たり前ですが、当時はオンラインでの打ち合わせにこちらが慣れていなくて不安でした。でも澄さんが当初からお送りしたコンセプト資料をきっちり理解いただいていたのでスムーズに打ち合わせが進んでいった印象でした。
澄:きちんとしたコンセプトワークをされている印象を持ちました。資料をもらって意図を丁寧に伝えていただきながら、ただ表現の幅は与えてもらえている。つくる人間のことを考えて寄り添ってもらえていることを感じていました。
加藤:アーティストの方と仕事をする際はコンセプトや意図を理解していただいた上で、こちらの想像を超えるような作品を制作してもらいたいという思いがあります。ただその力の引き出し方のさじ加減はいつも難しいです。相手との距離感がそれぞれ違うので。そういう意味では澄さんとの仕事はすごく心地よかったです。
澄:加藤さんとのお仕事は一緒に作っていく感覚を強く感じられて、その部分がとても印象に残っています。基本的に作品づくりは1人ではじめて1人で完結させますが、こうしてご一緒にプロジェクトをさせていただいたことは私にとっても大きな糧になったように感じています。最終的な仕上がりも自分の作品を活かしてくれるように心を込めてくれていることを感じられたので嬉しかったです。
これから澄毅の代表作となるような大作をつくっていきたい
加藤:そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです!最後に澄さんの今後についてお伺いしたのですが考えている構想はありますか?
澄:大作をつくりたいです。スリットの作品は手間は確かにかかるのですが、視界いっぱいを覆うくらいな澄毅の代表作となるような大きな作品をつくりたいです。
加藤:大作ですか!楽しみです。
澄:あとパリでもしていましたが写真や表現を教えることが好きなので、先生的なことも機会があればもっとしていきたいなと考えています。
加藤:コロナ禍で今はオンラインのハードルが下がったので、パリから日本でもコミュニケーションを取れて教えることは可能ですね。
澄:それからユニさんとの仕事が新鮮だったので人と何かつくっていくことにも興味あります。
加藤:またユニとも何か一緒にやりましょう。いつでも町家に遊びに来てください。本日はありがとうございました。
澄:ありがとうございました。しばらくは日本にいるのでまた遊びにきます!
スタヂオ・ユニはご縁を大切にお互いの信頼を基にクリエィティブすることを心掛けています。今回話をしていて同じような思いを抱いていただけたことに嬉しく思います。そしてアーティスト澄毅がさらに進化する可能性を感じました。今後の活躍に目が離せないアーティストの一人であることは間違いありません。
〈プロフィール〉
美術家・写真家 澄毅/Takeshi SUMI
1981年京都生まれ。2004年明治大学文学部卒、2009年多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒。2013年よりパリと日本で作品制作と発表を続けている。写真集「空に泳ぐ」(リブロアルテ、2012年)「指と星」(リブロアルテ、2019年)。近年の展示に「Les Fantaisies」Galerie Grand E’terna(パリ、2020年)、「東京好奇心2020 渋谷」(東京、2020)。
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